冬の寒い日、こたつでみかんを食べるのは至福のひとときですよね。
でも、そのみかんを触った手で愛猫を撫でようとしたら、すごい勢いで逃げる、なんて経験はありませんか。
猫パンチをくらったり、シャーッと威嚇されたりして、ただみかんを食べただけなのにどうして、と悲しくなった飼い主さんもいるかもしれません。
中には、みかんを触った手をクンクン嗅いだ後、なぜか舐めてくる猫もいて、もしかして好き?と勘違いしてしまうことも。
実はその一見矛盾した反応には、猫の健康に関わる重大な理由が隠されているのです。
猫がみかんの匂いを嫌いなのは、みかんの皮やみかんの汁に含まれるリモネンという成分が深く関係しています。
このリモネン、私たち人間にはリラックス効果のある良い香りですが、猫にとっては非常に不快で、肝臓で分解できない有毒な物質なのです。
もし誤って猫がみかんの皮食べた場合、中毒症状を引き起こし、最悪の場合は致死量に至る可能性もゼロではありません。
この記事では、なぜ猫がみかんを触った手を嫌うのか、その科学的な理由を詳しく解説します。
また、猫がみかんを食べた場合の危険性や対処法、逆にその匂いを安全な猫よけとして活用する方法まで、愛猫と安全に暮らすための知識を網羅的にご紹介します。
あなたの愛する猫を守るために、みかんとの正しい付き合い方を今すぐ学びましょう。
記事の要約とポイント
- なぜ逃げる? 猫がみかんを触った手を嫌いな理由が、危険な成分リモネンにあるとわかる!
- 食べたら危険! もし猫がみかんの皮食べた場合の中毒症状や、致死量について学べる!
- 好き or 嫌い? みかんの匂いへの猫の不思議な反応(舐める、逃げるなど)の本当の意味を解説!
- 正しい対処法! みかんの汁や皮から愛猫を守る方法と、安全な猫よけとしての活用法が身につく!
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冬の寒い日、暖かなリビングのこたつでみかんを頬張る。これは多くの日本人にとって、心和む冬の原風景ではないでしょうか。甘酸っぱい香りがふわりと広がり、テレビからは年末の特番が流れている。そんな穏やかな時間、あなたの足元で気持ちよさそうに喉を鳴らしていた愛猫に、ふと手を伸ばした瞬間。さっきまでゴロゴロと甘えていたその子が、まるでヘビでも見たかのように「シャーッ!」と牙をむき、電光石火の速さで部屋の隅へ逃げていく…。そんな経験、ありませんか。私はあります。今から30年以上も前、初めて家族に迎えた三毛猫の「ミケ」がまさにそうでした。ただ、みかんを触った手で撫でようとしただけなのに、あんなにも激しく拒絶されるなんて。当時は理由も分からず、ただただショックで、ミケに嫌われてしまったのかと本気で落ち込んだものです。あなたも今、あの日の私と同じように、愛する猫の不可解な行動に心を痛めているのかもしれません。しかし、ご安心ください。それは決して、あなたのことが嫌いになったわけではないのです。その行動の裏には、猫という生き物が持つ、生命を守るための本能的で、そして科学的な理由がちゃんと隠されているのですから。
猫がみかんを触った手を嫌う本当の理由
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みかんを触った手から猫が逃げるのは、皮や汁に含まれるリモネンが原因です。猫はこのみかんの匂いを本能的に嫌い、避けます。中には手を舐める猫もいますが、それは好きだからではありません。猫にとってリモネンは有毒であり、なぜ嫌いなのか、そのメカニズムを解説します。
- 逃げるのはなぜ?猫がみかんの匂いを嫌いな本当の理由
- 猫はみかんが好き?手を舐めてくる場合の注意点
- 猫に有害な成分リモネンとは?みかんの皮や汁は特に危険
逃げるのはなぜ?猫がみかんの匂いを嫌いな本当の理由
猫がみかんの匂いを嗅いで逃げるのは、単なる気まぐれや好みの問題ではありません。彼らの行動は、はるか昔、野生で生きていた祖先の記憶にまで遡る、非常に根深い本能に基づいています。一体どういうことか?少し長くなりますが、私の経験と共にお話しさせてください。
猫の嗅覚は、我々人間の想像を絶するほど鋭敏です。人間の嗅覚細胞が約500万個であるのに対し、猫はその数倍から数十倍、一説には2億個もの嗅覚細胞を持つと言われています。つまり、私たちが「ああ、みかんのいい香りだな」と感じているその匂いは、猫にとっては嗅覚を直接殴りつけるような、暴力的なまでの強い刺激として感じられている可能性が高いのです。これはまるで、静かな図書館で突然ロックコンサートが始まったかのようなものでしょう。彼らがパニックを起こして逃げるのも無理はありません。
そして、その強烈な匂いの正体こそが、今回の話の核心であるリモネンという成分なのです。猫の祖先であるリビアヤマネコは、砂漠地帯で狩りをして暮らしていました。彼らにとって腐った肉や有毒な植物は、自らの命を脅かす存在。そのため、特定の刺激臭を「危険信号」として認識し、それを避ける能力を発達させてきました。柑橘系の果実に含まれるリモネンのツンとした刺激臭は、まさにその「危険信号」の一つとして、彼らの遺伝子に深く刻み込まれていると考えられています。だから、あなたの愛猫はみかんを触った手から逃げるのです。それは「飼い主さんが嫌い」なのではなく、「その手から危険な匂いがする!生き延びるために離れなければ!」という、生存本能からの叫び声なのです。
2010年の冬、私はあるご家庭からペットシッターの依頼を受けました。そこには「ソラ」という名前の美しい白猫がいました。飼い主さん曰く、「最近、私がおやつをあげようとすると逃げてしまう」とのこと。詳しく話を聞くと、その飼い主さんは冷え性対策で、毎日みかんの皮を布袋に入れて持ち歩いていたのです。原因は明白でした。彼女の手には常に微量なみかんの匂いが付着しており、ソラは「大好きな飼い主さん」と「危険な匂い」との間で混乱していたのです。原因を説明し、みかんの皮を持ち歩くのをやめてもらったところ、ソラは数日で元の甘えん坊に戻りました。この一件は、私たちが良かれと思ってやっていることが、いかに猫たちを苦しめている可能性があるかを痛感させられた出来事でした。あなたの猫がもし不可解な行動をとったなら、まずは匂いを疑ってみる。これは、30年以上猫と関わってきた私が得た、重要な教訓の一つです。
猫はみかんが好き?手を舐めてくる場合の注意点
さて、ここで一つの大きな疑問が浮かび上がります。「でも、うちの子はみかんを触った手を逃げるどころか、クンクン嗅いだ後にペロペロ舐めてくるんだけど?」という飼い主さんの声が聞こえてきそうです。これは非常に紛らわしい反応で、多くの人が「あら、この子みかんが好きなのかしら?」と勘違いしてしまう、最も危険な落とし穴の一つと言えるでしょう。
結論から申し上げますと、猫がみかんの匂いがする手を舐めるのは、決してそれが好きだからではありません。この行動には、主に二つの理由が考えられます。
一つ目は、「縄張り意識とマーキング行動」です。猫は非常に縄張り意識の強い動物。彼らにとって、自分のテリトリー(家の中や飼い主自身も含む)に未知の匂いが存在することは、大きなストレスになります。そのため、飼い主の手についた「みかんの匂い」という異物を、自分の唾液で上書きして消し去り、「これは私のものだ」と安心しようとしているのです。つまり、愛情表現ではなく、どちらかと言えば「おい、お前!俺の飼い主にワケのわからん匂いをつけやがって!」という、みかんの匂いに対する威嚇行動に近いものなのです。
二つ目は、純粋な「好奇心」です。特に若い猫に多いのですが、嗅いだことのない刺激的な匂いに対して、「これは一体なんだ?」と興味を示し、正体を探るために舐めて確認しようとすることがあります。しかし、どちらの理由であれ、この行動は猫にとって非常に危険な行為です。なぜなら、手を舐めることで、あの有害な成分リモネンを直接体内に取り込んでしまうことになるからです。
私にも苦い経験があります。まだ若かりし頃、知識が浅かった私は、愛猫がみかんを触った手を舐めてくるのを「珍しいものが好きなんだな」と微笑ましく見ていました。しかし、その日の夜、その子が僅かに嘔吐し、元気がなくなってしまったのです。幸い、翌日には回復しましたが、獣医師に相談したところ、ごく微量のリモネンを摂取したことによる一過性の体調不良だろうと言われました。あの時の、自分の無知が愛猫を苦しめてしまったという罪悪感と後悔は、今でも忘れられません。この経験から、私は声を大にして言いたい。猫がみかんの匂いがする手を舐めてきても、決して「好きだから」と放置しないでください。それは、猫からのSOSサインかもしれないのですから。すぐにその手を引っ込め、猫が届かない場所でしっかりと石鹸で洗い流してあげてください。
猫に有害な成分リモネンとは?みかんの皮や汁は特に危険
神戸新聞にもあるとおり、猫にリモネンは危険と言われており、頭に載せるだけでもNGのようです。
これまで何度も登場してきた「リモネン」という言葉。一体これは何者なのでしょうか。私たち人間にとっては、アロマオイルや香料、洗浄剤などに使われる、リラックス効果のある爽やかな香りの成分として知られています。しかし、このリモネン、猫にとっては姿を変え、牙をむく猛毒となり得るのです。
リモネンは、柑橘類の皮に特に豊富に含まれる精油成分の一種です。化学的にはテルペン類という有機化合物に分類されます。問題は、猫の体にあります。猫の肝臓には、このリモネンを分解・代謝するために必要な酵素「グルクロン酸転移酵素」が、遺伝的に欠けているか、あるいは極端に少ないのです。人間や犬はこの酵素を持っているため、リモネンを摂取しても無毒化して体外に排出できます。しかし、猫はそれができません。分解できない毒素は体内を巡り、肝臓や腎臓にダメージを与え、神経系に異常をきたし、重篤な中毒症状を引き起こす原因となります。
特に危険なのが、みかんの皮そのものと、皮をむいた時に飛び散るみかんの汁です。果肉にも微量のリモネンは含まれていますが、皮にはその数十倍から数百倍という高濃度のリモネンが凝縮されています。みかんの皮を絞ると油のような液体が出てきますが、あれがまさしくリモネンの塊、猫にとっては毒液そのものなのです。
ここで一つ、具体的なデータをお見せしましょう。ある研究機関が温州みかんの成分を分析したところ、果皮に含まれる精油成分のうち、実に97%以上がd-リモネンであったという報告があります。(出典:農研機構果樹研究所報告)。みかん1個(約100g)の皮を約10gと仮定し、その精油含有率を1%とすると、皮1枚に約0.1g(100mg)のリモネンが含まれている計算になります。これが猫にとってどれほどの量なのかは後の章で詳しく述べますが、決して無視できない量であることはご理解いただけるでしょう。
ですから、「みかんの皮を食べた」というのは論外として、「みかんの汁が猫の毛皮についた」「リモネンを含むアロマを焚いている部屋に猫がいる」「柑橘系の洗剤で床を拭いた」といった状況も、猫にとっては非常に危険なのです。皮膚から吸収されたり、毛づくろいの際に口から摂取してしまったりするリスクが常に付きまといます。私たち人間社会にありふれた「良い香り」が、すぐ隣にいる愛猫の命を脅かす凶器になり得る。この事実を、全ての飼い主さんに知っておいてほしいと切に願います。
猫とみかんの危険性|みかんの汁触った手で撫でる前の正しい知識
さて、リモネンの恐ろしさをご理解いただけたところで、私たちの日常生活に潜む具体的な危険について、さらに踏み込んで考えていきましょう。最も身近で、そして最も起こりやすい事故が、「みかんを触った手で猫を撫でてしまう」という行為です。
「手を洗えばいいんでしょ?」と思うかもしれません。もちろん、それは大正解です。しかし、問題はそれほど単純ではないのです。2018年の暮れ、私がコンサルティングをしていたあるご家庭での出来事です。飼い主のAさんは、私の指導通り、みかんを食べた後は必ず石鹸で手を洗うことを徹底していました。それなのに、愛猫の「ルナちゃん」が頻繁に体を痒がり、一部の毛が薄くなってしまったというのです。アレルギー検査をしても異常はなく、獣医師も首を傾げるばかり。私も頭を抱えましたが、Aさんの生活を数日間にわたってヒアリングする中で、ふとあることに気づきました。
Aさんは、みかんを食べる前に、まずテーブルの上でゴロゴロと転がして皮を柔らかくする癖があったのです。その手で、無意識にルナちゃんを撫でていた。そして、みかんを食べた後に手を洗っていた。順番が逆だったのです。皮を転がした時点で、彼女の手には目に見えないほど微細なみかんの汁とリモネンが付着していました。その手で撫でられたルナちゃんは、微量のリモネンを常に皮膚に塗りつけられていたことになります。これが原因で、接触性の皮膚炎を起こしていたのです。
この事例からわかるように、危険は私たちが思う以上に巧妙に日常に潜んでいます。みかんを触った手で猫を撫でることが危険な理由は、主に以下の3つです。
- 皮膚からの吸収:猫の皮膚は人間よりも薄くデリケートです。付着したリモネンが経皮吸収され、アレルギー反応や皮膚炎を引き起こす可能性があります。
- 毛づくろいによる経口摂取:猫は日に何度も毛づくろいをします。体に付着したみかんの汁を舐めとることで、結果的にリモネンを直接摂取してしまい、内臓に負担をかけることになります。
- ストレス:前述の通り、猫は柑橘系の匂いを本能的に嫌います。自分の体から四六時中嫌いな匂いがすることは、彼らにとって計り知れないストレスとなり、食欲不振や問題行動の原因にもなり得ます。
ですから、愛猫を守るための正しい知識とは、「みかんを食べ終わったら手を洗う」だけでは不十分なのです。「みかんに触れる前、そして触れた後は、必ず猫に触れる前に石鹸と流水で手を洗う」。この一連の流れを一つの習慣として徹底することが、何よりも重要なのです。あなたのその手は、愛猫を優しく撫でるための手であって、毒を塗りたくるための手ではないはずですから。
猫にみかんは危険!致死量と応急処置
猫
みかん
致死量
食べた
みかんの皮
猫がみかんの皮食べた場合、リモネン中毒で嘔吐や皮膚炎を起こす危険があります。特に子猫や老猫は注意が必要です。猫にとっての致死量や、万が一食べた際の具体的な応急処置、病院へ行くべき症状の目安を解説。みかんの匂いを安全な猫よけに使う方法も紹介します。
- もし猫がみかんを食べた場合の中毒症状と危険性
- 猫のみかんの致死量は?みかんの皮食べた場合は特に注意
- 嫌いな匂いを活用!安全な猫よけとして使う方法
- 猫をみかん触った手で触ると危険?まとめ
もし猫がみかんを食べた場合の中毒症状と危険性
万が一、目を離した隙に愛猫がみかんを口にしてしまったら。想像しただけで血の気が引く思いですが、パニックにならず冷静に対処するためにも、起こりうる症状と危険性を正しく知っておくことが重要です。猫がみかんを食べた場合、特に危険なのは果肉よりもみかんの皮食べたケースですが、症状は摂取した部位や量によって異なります。
まず、比較的軽度な初期症状として現れやすいのが、消化器系の異常です。
- よだれが大量に出る(流涎)
- 嘔吐、吐き気
- 下痢
これらは、体が異物(毒素)を必死に排出しようとしているサインです。同時に、元気がなくなり、ぐったりと動かなくなる(元気消失)ことも多く見られます。
さらに、リモネンが皮膚や粘膜に付着した場合には、以下のような症状が現れます。
- 皮膚の赤み、かぶれ、湿疹
- しきりに体を掻いたり、舐めたりする
- 目の充血やしょぼつき
そして、最も恐ろしいのが、リモネンが体内に吸収され、神経系にまで影響を及ぼした場合の「神経症状」です。
- 体のふらつき、まっすぐ歩けない(運動失調)
- 筋肉の震え、けいれん
- 極度の興奮、または昏睡
これらの神経症状が見られた場合は、極めて危険な状態であり、一刻を争います。肝臓や腎臓に深刻なダメージが及んでいる可能性が高く、命に関わる事態に発展しかねません。
ここで重要なのは、「どれくらい食べたか」を飼い主が正確に把握することです。果肉をひとかけら舐めた程度であれば、多くの場合、一過性の軽い症状で済むかもしれません。しかし、「みかんの皮食べた」という場合は話が全く違います。前述の通り、みかんの皮には高濃度のリモネンが凝縮されているため、少量でも重篤な中毒を引き起こすリスクが格段に高まります。
もし愛猫がみかんを口にしたのを目撃した場合、あるいは上記のような症状が見られた場合は、迷わずすぐにかかりつけの動物病院に連絡してください。その際、「いつ、何を、どれくらいの量食べたか(あるいは、その可能性があるか)」そして「現在どのような症状が出ているか」を正確に伝えることが、迅速で的確な治療に繋がります。自己判断で様子を見るのは絶対にやめてください。猫は体調不良を隠す名人です。飼い主が気づいた時には、すでに手遅れ寸前というケースも決して少なくないのです。
猫のみかんの致死量は?みかんの皮食べた場合は特に注意
「具体的に、どれくらいの量を食べたら死んでしまうのか?」これは飼い主として最も知りたい、そして最も知りたくない情報かもしれません。猫におけるリモネンの正確な致死量(LD50:半数致死量)については、残念ながら、倫理的な問題もあり、管理された科学的データとして明確に確立されているわけではありません。しかし、いくつかの研究報告や臨床事例から、おおよその危険量を推測することは可能です。
一般的に、動物実験のデータなどから、猫におけるリモネンの経口摂取による中毒量は、体重1kgあたり数ミリリットル(ml)からとされ、5g/kg以上で重篤な症状、それ以上では致死的な影響を及ぼす可能性があると言われています。
では、これを実際のみかんに当てはめてみましょう。
- 取得方法:前述の通り、温州みかんの皮には重量の約1%程度の精油が含まれ、その主成分がリモネンです。
- 計算式:猫の体重(kg) × 中毒量(g/kg) = 危険なリモネン摂取量(g)
- 結果:例えば、体重4kgの標準的な体格の猫で考えてみましょう。中毒症状が現れ始める可能性のあるリモネン量を仮に1g/kgとすると、4gのリモネンが危険量となります。致死的なレベルを5g/kgとすると、20gのリモネンが致死量に相当する計算です。
先ほどの計算で、みかん1個の皮には約0.1g(100mg)のリモネンが含まれるとしました。この計算だと、皮を40個分も食べないと危険量に達しないことになり、あまり現実的ではありません。しかし、これはあくまで最低限の概算です。実際には、みかんの品種や熟度によってリモネンの含有量は大きく変動しますし、猫の個体差(年齢、体重、健康状態、肝機能の強さ)が非常に大きく影響します。特に、肝臓の機能が未熟な子猫や、機能が衰えている老猫、もともと肝臓に疾患のある猫などは、ごく少量のリモネンでも重篤な症状に陥る危険性が飛躍的に高まります。
私が過去に経験した最も悲しいケースは、生後6ヶ月の子猫が、飼い主が目を離したわずかな隙にゴミ箱からみかんの皮を一片(おそらく4分の1個分程度)かじってしまい、急性肝不全で亡くなってしまったというものでした。この子猫にとって、その一片の皮が致死量となってしまったのです。
この事実から私たちが学ぶべきことは、「致死量以下だから安全」という考えは絶対に通用しない、ということです。猫にとって、リモネンは「少量でも毒」。みかんの皮一片、みかんの汁一滴が、愛する家族の命を奪う可能性を秘めている。このことを肝に銘じ、危険性そのものを生活環境から徹底的に排除する努力が求められるのです。
嫌いな匂いを活用!安全な猫よけとして使う方法
ここまで、みかんとリモネンの危険性について散々お話ししてきましたが、視点を変えれば、猫が本能的に嫌いなこの匂いを、私たちの生活に役立てることも可能です。それが「安全な猫よけ」としての活用です。ただし、これもまた正しい知識を持って行わないと、猫を苦しめるだけの結果になったり、全く効果がなかったりします。ここでも、私の失敗談を一つお話ししましょう。
あれは20代の頃、まだ知識も経験も乏しかった私は、新しく買ったソファで愛猫が爪とぎをしてしまうのに悩んでいました。そこで思いついたのが、「猫はみかんが嫌いだから、ソファにみかんの皮を置いておけばいいんだ!」という安直なアイデアでした。早速実行してみると、確かに最初の数日、猫はソファに寄り付きませんでした。「これは大成功だ!」と喜んだのも束の間、一週間もすると、乾燥して香りが飛んだみかんの皮は、猫にとって格好のオモチャに成り下がっていました。カサカサと音を立てて転がる皮を、楽しそうに追いかけ回す愛猫の姿を見て、私は自分の浅はかさを猛省しました。
この失敗から学んだのは、猫よけとして匂いを使う場合、「持続性」と「安全性」が何よりも重要だということです。みかんの皮をそのまま置く方法は、効果が長続きしない上に、乾燥した皮を猫が誤食するリスクもあり、全くお勧めできません。
では、どうすれば安全かつ効果的に活用できるのでしょうか。
まず大原則として、リモネンを含む市販の忌避剤や精油(エッセンシャルオイル)を、猫が生活する室内の空間で使うことは絶対に避けるべきです。霧状に噴霧されたリモネンを猫が吸い込んだり、皮膚に付着させたりするリスクが高すぎます。
室内で活用するのであれば、もっと物理的で安全な方法があります。例えば、猫に入ってほしくない場所(キッチンのカウンターや大切な家具の周りなど)の近くに、蓋に穴を開けた小瓶を置き、その中にみかんの皮や柑橘系の香りがついたコットンを入れるのです。こうすれば、猫が直接触れることなく、局所的に匂いを漂わせることができます。ただし、猫が瓶を倒して中身をこぼさないよう、設置場所には細心の注意が必要です。
屋外での野良猫対策としてであれば、庭や花壇など、猫に来てほしくない場所に、乾燥させたみかんの皮を撒いたり、柑橘系の香りがする木酢液などを希釈して撒いたりする方法は一定の効果が期待できます。
しかし、最も重要で、最も猫に優しい「猫よけ」は、匂いに頼ることではありません。猫がなぜそこに行ってしまうのか、その理由を考え、代替案を用意してあげることです。ソファで爪とぎをするなら、もっと魅力的な爪とぎ器を用意してあげる。入ってほしくない場所があるなら、物理的にゲートを設置する。そして、猫が安心して過ごせる、居心地の良い場所を家の中にたくさん作ってあげる。結局のところ、猫との共生は、彼らの習性を理解し、力で押さえつけるのではなく、知恵と愛情で導いてあげることに尽きるのです。
猫をみかん触った手で触ると危険?まとめ
長い時間、私の話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。こたつとみかん、そして猫という、日本の冬の微笑ましい光景に潜む、意外な危険性についてお話ししてきました。最後に、これまでの内容を改めて振り返り、明日からのあなたと愛猫の生活に役立てていただければと思います。
結論として、みかんを触った手で猫に触ることは、紛れもなく「危険」です。その理由は、みかんの皮やみかんの汁に高濃度で含まれるリモネンという成分が、猫にとって有毒だからです。猫は肝臓でリモネンを分解できず、体内に蓄積することで、皮膚炎から嘔吐、下痢、さらには重篤な神経症状や肝機能障害を引き起こす可能性があります。特に、好奇心からみかんの皮食べた場合、そのリスクは計り知れません。子猫や老猫であれば、ごく少量でも致死量に至るケースも報告されています。
猫がみかんの匂いを嫌い、逃げるのは、「危険を察知せよ!」という本能からの叫びです。逆に、手を舐めてくるのは好きだからではなく、異臭を消そうとするマーキング行動や好奇心によるもので、リモネンを直接摂取させてしまう最も注意すべき行動の一つなのです。
しかし、この事実を知ったからといって、もう二度とみかんを食べないと決める必要はありません。過度に恐れるのではなく、正しく理解し、正しく対処することが何よりも大切です。
みかんを食べるときは、猫がいない部屋で。
食べた後は、必ず石鹸と流水で丁寧に手を洗う。
みかんの皮は、猫が絶対に漁れないよう、蓋つきのゴミ箱にすぐに捨てる。
たったこれだけの、ほんの少しの心がけが、あなたの愛する家族を、深刻で見えない危険から守ることになります。
これからの長い冬、あなたがみかんを手に取るたびに、ぜひ今日私の話したことを思い出してください。その甘酸っぱい香りの向こうにいる、小さな家族の存在を。そして、正しい知識という名の盾で、そのかけがえのない命を守ってあげてください。そうすれば、冬の暖かなリビングは、あなたにとっても、愛猫にとっても、最高に安全で幸せな場所であり続けるでしょう。あなたの猫との毎日が、これからも健やかで喜びに満ちたものでありますように。
参考